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どうして空き家はなくならないのか―空き家に関する法律を解説ー

序論:空き家がなくならない現実と法律の矛盾

空き家問題のニュースを見かけない日はありません。にもかかわらず、法律も整備されてきたのに空き家は減っていません。なぜでしょうか。本稿では、「法律制度」と「実際の運用・現地事情」のギャップに焦点を当てつつ、「空き家はなぜなくならないか」を法律面から解説します。

まず結論を言えば、法律制度だけでは解決できない多くの構造的なハードルがあるからです。制度の網は張られているが、網を通して落ちる「穴」が多数あるのです。

空き家問題が深刻化する背景

日本では少子高齢化・人口減少、地方の過疎化、都市圏への人口集中といった潮流が続いています。この中で、空き家は「使われなくなった住宅ストック」として膨張してきました。
総務省の統計などでは、居住目的のない空き家が過去20年で約1.9倍に増加するといった推計もあります。
持ち主が本拠地を移したり相続で所有者が遠隔地であったり、維持コストや管理負担が重いことから放置されるケースが多く見られます。

こうした背景があるなかで、法律を制定・改正して対策を強化してきた歴史があり、2023年には改正がなされました。

空き家対策特別措置法(空家法)の基本構造

まず、空家法の骨格を押さえておきましょう。

空き家等の定義

空家法上、「空家等」とは、「建築物またはこれに附属する工作物であって、居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」を指します。
「使用されていない状態が常態である」こと、という表現がキーで、単発で空きになるのではなく一定期間継続して空きであることを前提にしています。

特定空家等制度

空家法は、すべての空き家を同じ処遇に置くわけではなく、「特定空家等」という区分を設けています。
特定空家等とは、以下のような状態を指します:

  • 放置すると倒壊・崩壊など「保安上危険」となる恐れがある状態

  • 衛生面で害虫・ネズミ発生等「衛生上有害」となる恐れがある状態

  • 景観を著しく損なう状態

  • 周辺環境への悪影響を及ぼすことが明らかで、放置が不適切と認められる状態

認定されると、所有者に対して行政による措置が段階的に及ぶようになります。

所有者の義務/行政措置の流れ

空家法は、「所有者等」に対して適正管理義務を課しています。
管理義務を果たさない場合、地方自治体(市町村)は、次のような順序で対応できます:助言 → 指導 → 勧告 → 命令

命令に従わない場合、最終的には行政代執行(自治体が改善・除却を行い、その費用を所有者に請求する)も可能とされています。

また、特定空家等に認定されると、当該敷地に係る固定資産税・都市計画税の住宅用地特例が外され、税負担が増加する可能性があります。

こうした制度を通じて、法律は「抑止力」および「強制的措置を可能とする枠組み」を与えています。

令和5年改正で導入された「管理不全空家等」制度

ただ、これだけでは不十分と判断され、2023年12月(令和5年12月13日)から改正法が施行され、新たに「管理不全空家等(かんりふぜんあきやとう)」という区分が加わりました。

改正の目的・背景

特定空家等に指定されるまでに至らない「予備的な状態」にある空き家が多数あること、そして放置が進行してからでは改善が困難になるケースが多いことが改正の背景です。
法律改正により、行政が早期段階で関与できる制度的な入口を設ける狙いがあります。

管理不全空家等とは何か

「管理不全空家等」とは、適切な管理が行われていない空き家であって、将来的に特定空家等と判断されるおそれのある状態を指します。
具体的には、外壁・窓・屋根などの劣化、雑草伸長、敷地内のゴミ放置、害虫発生の可能性など、管理不良と判断されうる状態が対象になり得ます。

また、管理不全空家等に該当する場合、住宅用地特例の適用除外勧告などが行われ得るようになりました。

特定空家との違い、改正後の強化点

大きな違いは、特定空家等は既に深刻な劣化状態であるのに対し、管理不全空家等は予備的段階である、という点です。
また、管理不全空家等への措置は、命令や代執行まで直ちに踏み込むわけではなく、「指導・勧告」段階で所有者へ改善を促すことが期待されています。

こうした制度強化は、「空き家放置の予防」と「段階的改善誘導」が目的とされています。

なぜ法律があっても空き家はなくならないか(法律の限界・運用課題)

ここまで制度を整理しましたが、依然として空き家が減らない理由があります。主に以下のような運用上・構造的な課題があります。

法令の適用限界・人的リソース不足

市町村の行政体制には限界があり、一軒一軒を精密に監視し改善を追うことは現実的には難しいケースが多いです。指導・勧告を出してもフォローアップまで手が回らない自治体もあります。
また、所有者が多数かつ所在不明である空き家をすべて網羅することは人的コストがかかりすぎます。

所有者の無対応・所在不明問題

相続で所有者が多方面・遠隔地になる、所有者が高齢で対応能力がない、所有者が連絡を取れないなど、「誰に指導すべきか」が明らかでないケースが散見されます。こうした空き家は、行政でも対応が先送りされがちです。

財務負担と費用対策の壁

空き家を維持・改修・除却するには相応の費用がかかります。特に解体や大規模修繕は高額です。所有者がそのコストを負えないため、改善せず放置するケースが多くなります。また、補助金や助成制度が自治体によって異なり、制度利用の手間・条件がハードルになることもあります。

地域特性・人口減少の影響

過疎地域・地方では、そもそも買い手・借り手が少なく、空き家を活用するマーケットが存在しにくいという構造問題があります。また、人口減少が続く地域では、住む人そのものが減少しているため空き家を減らすだけの需要転換が難しいのが現実です。

こうした課題を制度だけで克服するのは簡単ではありません。法律は「抑止・誘導」の役割を持ちますが、実効力を持たせるには制度外の支援・地域力・市場創出などが必須です。

今後の方向性・期待される対応

制度だけでなく、さまざまなプレーヤーが動くことで空き家削減を目指す方向性があります。

行政・自治体の強化策

  • 空き家バンク制度や利活用支援制度を強化

  • 補助金・助成金制度を拡充し、所有者への改修・除却支援

  • 所有者情報整備、電力会社・公共機関との連携による所有者把握支援

  • 早期介入型の指導体制とモニタリング強化

所有者の意識変化と支援制度

  • 相続発生時点での管理計画策定

  • 空き家維持コストの見える化と収益モデル検討

  • 所有者グループや地域で共同管理を行うコミュニティ手法

  • 制度活用支援・相談窓口の整備

空き家活用・リノベーション促進

  • 古民家再生・リノベーション需要創出

  • 共同住宅・シェアハウス・民泊・地域交流拠点等への用途転換

  • まちづくり型活用と連携したプロジェクト立案

  • 空き家マッチング市場の整備

こうした方向性がうまく結実すれば、法律制度の「枠」は活かされ、空き家問題そのものを構造から改善できる可能性があります。

まとめ

法律制度が整ってきたとはいえ、空き家はなくなりません。その主な原因は、運用の非効率性、所有者対応困難、コスト負担、需要の欠落、地域構造といった法律だけではカバーしきれない壁があるからです。

だからこそ、「法律を使えるようにする」ことと、「現地対応を支援できる専門性」が重要になります。もしあなたが空き家を所有していて、法律対応に悩んでいる、具体的な活用策を模索している、現地支援がほしいと思っているなら、ぜひ空き家活用TEAMRにお声がけください。

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