今回、TEAMRサポートメンバーの私yukoは、代表の関さんと空き家活用を担当するカナさんに案内されながら、水戸市内に点在する「生まれ変わった空き家」をめぐりました。
築年数不詳の家、雑草に覆われた庭、相続の悩みを抱えた家主…。
どれも最初は「この家に住む人なんているのだろうか」と思える状態だったそう。
しかし、そこにはそれぞれの物語があり、人の手が入り、新しい暮らしが始まっていたのです。
この記事では、ツアー前半でめぐった7件の物件を紹介します。
1.「0円でいいからもらってくれたら」 ― 愛宕町の二棟の空き家

最初に訪れたのは、水戸市愛宕町。
築年数は不明ですが、契約期間は8年。借受金額は月2,000円に対し、貸出金額は29,000円。
片付けと修繕費用には約42万円を投じました。
数字だけを見ても、かなり特徴的な物件といえるでしょう。
所有者さんの思い
この物件は二棟が隣接しており、所有者さんは「もう0円でいいからもらってくれ」と話していました。
手前の建物は床も壁もボコボコで、状態はかなり厳しい。
奥の建物も含め「両方とも引き取ってほしい」というのが本音だったそうです。
借主さんとの出会い
そんな中、この物件を借りてくれたのは40代の女性でした。
彼女が口にしたのは「私の親が大工なんです」という言葉。
実際の改修はDIYというレベルをはるかに超えており、床をすべて剥がし、基礎から直すという本格的なもの。
まさに「現状のまま貸し出し、借主自身で改装する」という典型的なパターンが実現したのです。
関さんの視点
さらにこの物件には別の課題もあります。
隣接する駐車場は所有者が異なり、その奥にもまた空き家が存在しているのです。
TEAMR代表の関さんは「所有者さんをあたって権利関係を整理していきたい」と語っていました。
物件そのものだけでなく、周辺環境との関係性をどう整えるかが、今後の大きなポイントになりそうです。
2.受け継がれた家のゆくえ ― 末広町の物件

次にご紹介するのは、水戸市末広町にある築46年の物件です。
契約期間は6年。借受金額は月5,000円、貸出金額は42,000円。片付け・修繕費用には55万円をかけて整備されました。
所有者さんの変化と相続
当初の所有者さんは高齢で、この物件について相談を受けている最中に残念ながらお亡くなりになってしまいました。
その後、物件は甥御さんに相続され、改めて「どうにか手放したい」という相談が持ち込まれます。
結果的に、この物件は投資用として関さんの知り合いの投資家さんに売却されることとなりました。
入居者の現状
現在この家に住んでいる方は生活保護を受けている方です。
本来であれば生活保護世帯の場合、家賃は先に自治体から支給されるため、滞納は起こりにくいはずです。
ところが、この物件では家賃滞納が発生しており、強制退去になるかもしれないという状況にあります。
なぜ滞納が生じているのか、その詳細は不明のままです。
物件のこれから
空き家を投資家に売却して活用する流れは、所有者にとっても解決策の一つとなり得ます。
しかし同時に、入居者の生活や地域での住まいの継続性といった課題が残るケースもあります。
末広町のこの物件は、まさに「空き家活用の明暗」が表れている一例といえるでしょう。
3.ラグビーボールが導いた縁 ― 愛宕町の思い出の家

次に訪れたのは、水戸市愛宕町にある築45年の物件です。
契約期間は8年、借受金額は月9,000円、貸出金額は56,000円。
片付けや修繕費用には160万円を投じて再生されました。
雨漏り対策に挑んだ「裏ワザ」
この物件は雨漏りが課題となっていました。
通常なら屋根の修理や大規模な補修を考えるところですが、ここではベランダ部分に小屋を作るというユニークな方法で雨漏り対策を実施。
コストを抑えつつも実用的な工夫が凝らされた事例となりました。
残置物の山から現れたラグビーボール
空き家相談の際、家の中には大量の残置物がありました。
片付けの最中、その中から一つのラグビーボールが出てきます。
表面には寄せ書きがびっしりと記されていました。
よく見ると、そこには関さんの名前も…。
後になってわかったことですが、この家は関さんのラグビー部の先輩の実家だったのです。
空き家と人のつながり
空き家の片付けや再生の現場では、こうした思いがけない「人の縁」が浮かび上がることがあります。
単なる空き家の再活用にとどまらず、そこに暮らしてきた人々の歴史や記憶が詰まっていることを実感させられる瞬間でした。
4.1000円で借りてもらえる喜び ― 八幡町の大きな家

水戸市八幡町で見せてもらったのは、築50年の大きな家。
契約期間は10年、借受金額はわずか月1,000円。
貸出金額は75,000円で、片付け・修繕には190万円を投じて再生されました。
2万冊の本が眠っていた家
この家は所有者さんが相続した実家でした。
相談を受けたときは、家の中には約2万冊の本があったそうです。
部屋数は7部屋ほどもあり、広さも十分にある物件です。
建物自体は意外なほどしっかりしていて、大きな傷みは見られませんでした。
所有者さんの安堵
所有者さんは近隣に住んでおり、「1,000円でこの状態で借りてくれるなんて」と、とても喜んでくれました。
実家の維持や管理に困っていた状況から一歩抜け出せたことは、大きな安心につながると思います。
子育て世帯の新しい暮らし
この家を借りたのは、6人の子どもを育てるご家庭。
上の子は高校生で、一番下はまだ1歳というにぎやかな大家族です。
広い部屋数を生かし、子どもたちがのびのびと暮らせる環境を手に入れることができました。
周辺の風景と空き家の現実
物件の手前にある家は空き家のようにも見えましたが、実際には人が住んでいるとのこと。
ただし、庭の草木が生い茂り、外からは空き家と見間違えるほど。
地域の景観から見ても、空き家問題が身近に存在していることを実感させられます。
八幡町のこの家は、持て余していた実家が「大切に使ってくれる借主」と出会うことで再生された事例。
所有者の安心と、子育て世帯の新しい生活が重なり合った、希望を感じさせる活用となりました。
5.駐車場は1台、でも「きれいな家」 ― 双葉台の物件

水戸市双葉台にある築48年の一戸建て。
契約期間は10年、借受金額は月15,000円、貸出金額は60,000円。
片付けや修繕費用は59万円で整備されました。
駐車場が一台のみというハンデ
この物件が比較的安く借り受けられた理由は、駐車場が一台分しか確保されていなかったからです。
車社会である水戸市では、複数台の駐車スペースを求められることが多く、これが条件面での大きな制約になっていました。
室内はきれい、しかし庭は「ジャングル」
相談を受けた当時、家の中は驚くほどきれいで、築年数を感じさせない状態でした。
しかし一歩庭に出ると様子は一変。
雑草や木々が伸び放題で、人が入ることすら困難な「ジャングル」のような状態だったそうです。
外観と内観のギャップが、この物件の特徴でもありました。
現在は庭もきれいに整備され、安心して暮らせる環境へと生まれ変わっています。
危険だったブロック塀の撤去
さらに、敷地の周囲を囲んでいたブロック塀の上部は劣化が進み、倒壊の危険がありました。
安全面を考慮し、上の段を撤去。
下の二段だけを残すことで、シンプルかつ安全な境界へと整えられました。
この双葉台の物件は、「駐車場の不便さ」という課題を抱えながらも、室内の状態の良さと適切な外構整備によって新たな価値を見出すことができました。
空き家活用の現場では、家そのものだけでなく、駐車場や庭、塀といった周辺環境も含めたトータルな目線が求められるのだと実感させられる一例です。
6.売れない理由は「感情」 ― 双葉台にあるもうひとつの物件

水戸市双葉台にある築47年の家。
契約期間は8年、借受金額は月3,000円、貸出金額は65,000円。
片付けや修繕には189万円をかけて再生されました。
売却ではなく「借り上げ」を選んだ所有者さん
この家を相続した所有者さんは、当初「すぐに売る」という選択を取ることができませんでした。
親族間で何度も話し合いをして、やっと相続がまとまったばかり。
もちろん、売ることを親族から止められているわけではない。
でも感情的に、すぐに手放す気持ちにはなれなかったそう。
長い年月を経て相続の整理を終えた直後に、実家を売却するー。
頭では合理的だと分かっていても、心がついていかない。
その葛藤が、所有者さんの本音でした。
管理できないからこその選択
一方で、遠方に住んでいたため自分で家を管理することはできない。
そこで選んだのが「借受け」という方法でした。
管理を委ねながらも家を活用できるこの仕組みは、所有者さんにとって大きな安心につながったのです。
共感したひと言
話を聞きながら、私も思わず「なんかわかる」とつぶやいてしまいました。
相続したばかりの家をすぐに売る気持ちになれない―それは数字や合理性では測れない、人の感情の部分だからです。
多くの空き家所有者が抱える本音を目の前にした瞬間でした。
7.5分で決まった契約 ― 平須町の物件

場所は水戸市平須町。築53年の住宅です。
契約期間は10年、借受金額は月3,000円。
そして貸出金額は52,000円となりました。片付けや修繕にかかった費用は130万円。
たった5分で決まった「3,000円の家」
所有者のおばちゃんと物件前で待ち合わせをしたときのこと。
世間話のようなやり取りのなかで「じゃあ、3,000円で10年間お願いね」と話がまとまったそうです。
事務所限定で貸すわけでもなく、特別な条件があったわけでもない。
ほんの5分ほどの立ち話で、10年という長期契約が決まったのです。
荒れた室内
しかし、室内に足を踏み入れると現実は厳しいものだったそうです。
ガラスは割れ、ものは散乱。
特に驚いたのは、トイレの床下に作られていた大きなハチの巣でした。
人が長く住んでいない家には、想像もしない「自然の住人」が入り込むのだと痛感しました。
手をかければ、家は応えてくれる
片付けや修繕に130万円をかけて整えた結果、この家は月52,000円で借り手が見つかりました。
最初は「荒れた空き家」にしか見えなかった場所が、人の手を加えることで「誰かが暮らす場所」へと変わっていく。
改めて、空き家が秘めている可能性を感じた事例です。
空き家ツアー前編を終えて
7件の空き家をめぐって感じたのは、空き家にはそれぞれ事情があり、所有者さんや借主さんの思いが交差しているということです。
街を見渡すと、活用されずに残る空き家があちこちに点在しています。
こうした状況を前に、所有者さんが一歩踏み出せるよう支援し、それを受け止める体制を整えることの重要性を改めて実感しました。
空き家ツアーはまだまだ続きます。後編もお楽しみに!
TEAMR 運営サポートメンバー 鈴木 裕子
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