「空き家を再生して、街を元気にする」
その言葉は希望に満ちています。
しかし、TEAMRが日々向き合っているのは、そんなキラキラとした成功物語だけではありません。
今回レポートした物件は、まさにその裏側にある、目を背けたくなるような「生活の生々しい爪痕」が残る家でした。
TEAMRサポートメンバーの私yukoが取材したのは、茨城県水戸市東原にある一軒家。
水戸駅から車で10分、小学校まで徒歩6分、中学校まで徒歩3分。
近隣には病院やアリーナ、そして日本三名園の一つ「偕楽園」も徒歩圏内という、誰もが羨むような好立地です。

崩れゆく境界線と、一匹の黒猫
現場に到着してまず目に飛び込んできたのは、敷地の境界を囲うトタンの塀でした。
長い年月を経て傾き、雑に補修された跡が生々しいその塀は、
まるでこの家の住人が抱えていた危うい生活を象徴しているかのようでした。
庭には雑草が伸び始め、蔓(つる)が外壁に伸びている個所も見られました。

庭に足を踏み入れた瞬間、一匹の黒猫がこちらをじっと見つめていました。
何かを訴えるような、静かな視線。近づいても、なかなか逃げようとはしませんでした。
この家は猫たちの拠り所になっていたといいます。
主を失い、路頭にさまよってしまったのかもしれません。

ポストには、手紙やチラシが溜まり続けていました。
その隙間から覗くのは、何通もの「滞納通知」。
電気、ガス、水道……生活が、ぷつりと切れていった光景が浮かび、胸が締め付けられます。
鼻を突く「生活の崩壊」というにおい

銀色の玄関扉を開けた瞬間、思わず息を止めました。
これまで多くの空き家を見てきましたが、
「一番独特なにおい」だったと、はっきり言えます。
猫たちの居場所になっていたことが、その理由だと思います。
中に入ると、そこはすでにTEAMRの手配した業者さんが入り、残置物が撤去された後でした。

かつては庭までゴミで溢れていたといいます。
今はその荷物こそないものの、剥き出しになった畳や床板の惨状に、思わず絶句しました。
「ボロボロだ……」
廊下に入ってすぐの洗面所は、モノ自体は新しいはずなのに、使い方の雑さがこびりついた汚れとなって現れていました。
トイレも入居前に新調されたものですが、床はボロボロに傷んでいます。

お風呂場をのぞくと、壁は黒ずみ、カビの跡が広がっており、見ているうちに胸の奥が重くなっていきました。

トイレ向かい側の個室は、扉が何かにつっかえて開かない状態に…。
その扉自体も、なぜここまで壊れるのかと疑うほど傷んでいました。
「住む人によって、家はこれほどまでに表情を変えてしまうんだ…」
その現実に、背筋が寒くなるのを感じました。
キッチンの雑なDIYの跡
廊下の奥へ進むと、キッチンがありました。
そこには、前の入居者が自ら貼ったであろう、不揃いなリメイクシートの跡がありました。

汚れた壁を隠そうとしたのか、あるいは少しでも明るい空間にしたかったのか。
しかし、その作業はあまりにも雑でした。
柄はあちこちでバラバラ、サイズもちぐはぐ。
その端から覗く黒ずんだ壁が、かえって住人の「余裕のなさ」を際立たせていました。
心を締めつけた、一枚のメモ

さらに奥、二間続きの居室へ。
窓が大きく本来は明るいはずの空間ですが、剥がされた畳の跡が寒々と広がっています。
開かなかった部屋に、二間続きの居室入から入ることができました。
ボロボロになったふすまをよく見ると、紙で穴を塞いだり、ガムテープが幾重にも貼られたりして、無残な姿になっていました。
しかし、そのふすまの片隅に、小さなメモを見つけました。
「ばーちゃん好き」
日付と、「6才」の文字。
その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられました。
夜逃げ同然でこの家を去り、滞納通知が届き続けるような過酷な日常の中で、
6歳の子供が、おばあちゃんに向けて書いた純粋な想い。
やるせない気持ちでいっぱいになりました。

2階に刻まれた孤独、不気味な物置小屋
階段を上り2階へ向かうと、そこにも過酷な現実が待っていました。
天井には大きな雨漏りのシミ。

畳はすべて撤去され、主を失った立派なタンスだけが、部屋の真ん中にドシンと取り残されていました。

1階へ戻り庭へ。庭の奥には、古いトタンの物置小屋がありました。
中を確認することはできませんでした。
理由は、「怖い」と感じたから。
それほどまでに、この家は多くのものを抱えていました。

それでも、終わりではない
この物件は、TEAMRが活動の初期に借り上げた、思い入れの深い場所です。
生活保護を受給されている方に対し、「住む場所がない人を助けたい」という善意のもと、
家賃保証が通らなくても市役所からの直接納付を条件に入居を受け入れました。
しかし、6年という歳月を経て返ってきたのは、感謝の言葉ではなく、
ボロボロになった部屋と、連絡の取れなくなった入居者の足跡でした。
空き家活用は、きれいごとでは済まない、その現実を目の当たりにしました。
実は、この家は4月20日に所有者さんへ返却することが決まっています。
そしてその後は、所有者さんの息子さん(大学生)が、友達と一緒に住むことになっているのです。
空き家は、「失敗」で終わらせてはいけない
きれいに修繕して貸し出した家が、夜逃げのような形で、ボロボロになって返ってくる。
正直、やるせなさを感じました。
空き家活用は、決して簡単ではありません。
人が関わる以上、予想外の出来事も起こります。
それでも、この家は、また誰かの暮らしを受け入れようとしています。
TEAMRがやっているのは「再生」ではなく「循環」
TEAMRの活動は、一筋縄ではいきません。
今回のように、善意が裏切られることもあります。
想像を絶する汚れや、救いきれない貧困の連鎖を目の当たりにすることもあります。
それでも、TEAMRは活動を止めません。
なぜなら、私たちが動かなければ、誰にも気づかれずに朽ちていく家があり、そこで途切れてしまう「人の想い」があるからです。
空き家問題は、単なる不動産の問題ではありません。
日本の縮図であり、社会からこぼれ落ちそうな人々や建物を、どうやって救い出すかという「命」の問題です。
「泥臭い現実を知ってもなお、誰かのために動きたい」
「ボロボロになった場所を、もう一度温かい場所に変えたい」
そんな想いを持つ仲間が必要です。
一人では絶望してしまうような現場も、TEAMRというチームなら、知恵を出し合い、支え合って乗り越えていけます。
水戸市東原のこの家は、まもなく新しい住人を迎え、新しい歴史を刻み始めます。

壁のシミは消え、猫のにおいも消えるでしょう。
けれど、私たちがそこで見た「光と影」は、私たちの心に深く刻まれ、次の活動への原動力となります。
空き家の数は、これからも増え続けます。
でも、それを「問題」で終わらせるのか、「可能性」に変えるのか。
あなたの力を貸していただけませんか?
TEAMRは、一緒に活動する仲間を待っています。
TEAMR 運営サポートメンバー 鈴木 裕子
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