空き家ツアーの中盤、かなさんと訪れたのは、水戸市中丸町。
水戸市の西部、四季折々の表情を映す「大塚池」のほとりに、一軒の家が佇んでいました。
かつて建築家が自邸として建てたその家は、長いあいだ取り残されていました。
時の経過を感じさせる門構えと松の木。
そして手入れの行き届いた庭。
「空き家」という言葉が似合わないほど、堂々とした存在感を放っていました。
今回は、そんな空き家だった「建築家の家」が「人を迎える宿」へ再生した様子を紹介します。

「HOTORI」と名づけられた、湖畔の宿
かつて7年ものあいだ空き家だったこの建物は、2019年にTEAMR代表の関さんの手によって「ラグナロック」というゲストハウスとして再生されました。
当時、関さんは不動産業を始めたばかりで、空き家活用の経験もほとんどありませんでしたが、
「空き家を生かす場所を作りたい」という思いから、この物件に出会ったときすぐに借り上げ、建築士の加藤雅史さんと共にリノベーションを進めました。
そして現在は「HOTORI」という新たな名をまとい、関さんの友人である坂本裕二さんによって運営されています。
住所は、茨城県水戸市中丸町486-10。
「HOTORI」という名には、湖畔の静けさや自然との共生、訪れる人が肩の力を抜いて過ごしてほしい──
そんな想いが込められているようでした。
1階はピロティ、2階は湖を望む設計── 建築家の“視点”が息づく空間

車を進めて敷地に入ると、まず迎えてくれるのは立派な門。
門の前には悠然と枝を広げる松の木。くぐった先には、丁寧に剪定された庭木が並びます。
建物は1階部分がピロティ形式になっており、その先には美しい芝生の庭、そして大塚池の湖面が広がっていました。

庭からそのまま湖の遊歩道に抜けることができ、自然と建築が一続きになる。
まさに“建築家の家”らしい設計です。
玄関扉は格子状のデザインで、現在は暗証番号式のオートロックに改修済み。
中へ入ると、広々とした玄関ホールが出迎えます。

大きな開口からは庭の緑と光が差し込み、訪れた瞬間からこの家がもつ心地よさを感じることができます。
玄関正面の階段を上ると、そこには見晴らしのよい2階フロアが広がっていました。
廊下から眺める大塚池──建築と自然のコラボレーション

2階に上がると、最初に目を奪われるのは廊下の窓からの眺望です。
庭、そして湖までを一望できるように計算された設計。
建築家がこの土地と本気で向き合い、「住まいの中に風景を取り込もう」と考えたことが伝わってきます。
水回りも清潔に整えられています。
洗面や洗濯機・乾燥機も完備。浴室には窓があり、湯船につかりながら庭と湖を眺めるという贅沢な時間を楽しめます。
さらに小さなサウナまでついており、心も体も解きほぐされる空間です。

ダイニング・リビング・寝室が一体化する開放感

廊下の先に進むと、ダイニングキッチン、リビング、寝室がひとつながりになる空間が広がっていました。
仕切りを開放すれば、大人数でも過ごせるゆとりある設計。
15帖のリビングには大きなテレビと壁面収納、ソファが配置され、居心地よさが際立ちます。

隣の寝室は板張りの温かみある空間。布団を敷き詰めれば合宿利用も可能とのこと。
実際にグループでの宿泊やイベント利用も増えているそうです。

「KADO」が加わり、さらなる広がりを

2024年春には、新たな部屋「KADO」が完成しました。
庭と大塚池をより近くに感じられる特等席のような空間です。
セミダブルベッドが配置され、窓からの光と風を存分に感じられるこの部屋は、HOTORIの新しい魅力のひとつとなっています。

大塚池というロケーションの力
この物件の最大の特徴は、何といってもその立地です。
大塚池は茨城百選にも選ばれた景勝地。
白鳥が飛来する冬には、宿から眺めるだけでまるで絵画のような景色が広がります。
池の周囲には約2.6kmの遊歩道が整備され、朝夕の散歩やジョギングを楽しむ地元の人の姿も。
桜の季節には池のほとりが淡いピンクに染まり、市民にとっても憩いの場所となっています。
HOTORIは、この豊かな自然と一体化するように建っており、四季折々の景色をすぐそばで感じられる贅沢なロケーションです。
また、庭ではBBQレンタルを利用でき、湖畔の景色を眺めながら食事を楽しむ宿泊客も多いそうです。
交通アクセスも良好
湖畔の静けさを保ちながらも、アクセス面も便利です。
車であれば水戸ICから約10分、水戸市街地から約20分。
東京からでも高速道路で1時間15分ほど。
無料駐車場も3台分完備されています(入口が狭いため要注意)。
電車の場合は常磐線・赤塚駅から徒歩約20分。
タクシーも停車するため、都内からの小旅行にもぴったりです。
宿泊者たちからのレビュー
実際に宿泊した人たちからも、高い評価が寄せられています。
「建物の古さはあるものの、ホストの方がとても丁寧に整頓・清掃されていて、とても清潔でした。室内も庭も広く、周辺環境も静かで本当に過ごしやすかったです。連絡も丁寧で安心して宿泊できました!」
「高い天井、広いバスルーム、設備の整ったキッチン、広々としたリビング。いたるところに“広さ”を感じられる宿でした。周囲は静かで平和、アクセスも良く、駐車もスムーズ。ホストの対応も早くて安心でした」
「大人数での滞在でしたが、リビングがとても広く、みんなで集まって楽しく過ごせました。唯一気になったのはお風呂のお湯の出が大人数には少し足りなかったこと。でも近くに温泉施設があり、それもいい思い出になりました。オーナーさんが丁寧に対応してくださり、3日間とても快適に過ごせました!」 Airbnb レビューより
建築家が残した設計の力と、運営側の細やかな管理。
この二つが合わさることで、HOTORIは“古い家”ではなく“心地よい宿”として生まれ変わったのです。
7年間の空白を超えて──空き家が“人を迎える場所”になるまで
この家がかつて、7年間も空き家だったとは信じられません。
敷地も、建物も、設計の意図も、今なおしっかりと息づいている。
しかし、もし誰も手をかけなければ、この家もやがて崩れ、忘れ去られていったことでしょう。
そこに目を向けたのが、関さん。
空き家を“価値ある資源”と捉え、丁寧に整え、人が集う宿へと再生させました。
ただ修繕するだけではなく、土地の風景や建築家の想いを引き継ぎ、新たな時間を刻み始めたのです。
空き家の再生が、地域の風景を守る
空き家の活用というと、リフォームや収益化の話になりがちです。
けれど、HOTORIのような事例はそれだけでは語れません。
ここでは「空き家の再生=風景の継承」でもあるのです。
湖畔の景観と建物が調和し、人々の暮らしや旅の思い出の一部になる。
そんな再生の形が、確かにここにありました。
TEAMRとして感じたこと
私がこの現場を訪れたとき、最初に感じたのは「空き家の力」でした。
ただの不動産ではなく、地域の風景と時間をつなぐ“資産”になり得る。
空き家の再生は決して派手なものではありません。
でも、そこに込められた一つひとつの工夫と想いが、未来の風景をつくっていくのです。
この家も、建築家の設計思想と地域の自然、そして人の手による再生が重なり、今も静かに、けれど確かに輝いていました。
空き家から始まる、新しい物語
空き家は「使われなくなった建物」ではありません。
視点を変えれば、次の誰かの時間を受け止める“可能性”です。
HOTORIのような事例が各地で増えれば、日本の風景はきっともっと豊かになる。
私たちTEAMRは、そんな一歩一歩を記録し、届けていきます。
TEAMR 運営サポートメンバー 鈴木 裕子
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